尖っていて(力強く)丸い(優しい)、これぞ安心できる
スピッツサウンドの真骨頂。
いつもと変わらない
スピッツ節が炸裂している本作、まさに「とげまる」というタイトルに相応しくなっているのではないでしょうか。
根本的な部分は何も変わっていないんです。
時にはロックに、時にはポップさを押し出した力強さと優しさが同時に感じられるバンドサウンド、マサムネのハイトーンボイスを活かした楽曲など…
まさに
スピッツらしさが溢れ出たアルバムに仕上がっていた印象。
今回の「とげまる」は
スピッツらしさをより洗練させた感じと言えます。
不変的である
スピッツのバンドサウンド、それが円熟味の増した演奏技術によって奏でられているためにより上質なものになっているのです。
マサムネのメロディセンスも素晴らしく、いつも以上に研ぎ澄まされているように感じました。
攻撃的な感じは薄れているものの、その代わりに優しさを強調した作風のために心に入って来やすいのがいい。
歌詞もひねくれたものではなく、ストレートに表現しているものが多くて音と共に真っ直ぐに伝わってくるのが印象的。
どの曲も素晴らしいのですが、1曲だけ特筆すべきは6曲目の「
新月」。
バンドサウンドとピアノ、浮遊感を感じさせるシンセサウンドを絡ませたアレンジが印象的なバラードですが…
サウンドによる表現力が格段に増していることを実感できました。
夜の神秘的な雰囲気を見事にイメージしきった楽曲は聞く者をその世界へと引きずり込む力があります。
演奏も含めて、あまりの美しさに息を呑むほど…
聞く時は何も考えずに、サウンドに集中して聞いてほしい。
また、アルバムの完成度を決める曲順も絶妙。
シングル曲が多めになっていますが、どのシングル曲もヘタにアレンジせずにそのまま収録しています。
これだと新鮮さに欠けるかと思いきや、適材適所に曲が配置されていてどの曲も輝いています。
個人的には、「えにし」から「
君は太陽」までの流れが秀逸。
ここからの展開は必聴なので、ぜひ腰を据えて聞いてほしい。
曲そのものは今までと対して変わらないのに、とにかく圧倒的。
これは、
スピッツの4人が曲順まで含めて考え抜いた末に完成した名盤です。
・お気に入り曲の感想
1.ビギナー
イントロから切ないメロディが爆発した
スピッツ流のロックバラード。
表題曲よりもエレキの音が前面に押し出された楽曲は圧巻。
特に、サビのバンドアンサンブルの力強さや間奏終盤に高速タッピングで奏でられるギター
アルペジオは注目して聞くべき。
3.シロクマ
アコギの優しい音色とエレキの爽やかなサウンドが聞く者を包み込んでくれるポップナンバー。
全体的にギターを目立たせたアレンジが印象的で、いつもの
スピッツ節が炸裂した1曲に仕上がっています。
間奏部分もシンプルにギターを聞かせているって感じですが、イントロからAメロにかけてのギターリフやサビに入る手前の箇所はガツンと来ます。
サビの安定したベースラインとギターが絡み合う展開がすごく好きですね。
歌詞は現代人が感じているであろうストレスをシロクマの気持ちとして代弁しているもので、共感できるのではないかと。
4.恋する凡人
イントロからうねるギターサウンドが印象的。
うねるベースラインと力強いドラム、Aメロのゴリゴリとしたギターリフがカッコいい。
サビで鳴らされるキーボードも曲の持つ疾走感をより引き立てていると同時に、甘酸っぱさを感じさせてくれる。
そして、歌詞もがむしゃらに恋する気持ちを歌っています。
疾走感のあるメロディのように走り出した「恋の気持ち」を表現してるのが見事。
5.つぐみ
アコギとストリングスの爽やかな音色がいいアクセントになっていて、爽やかさを感じさせるメロディーが印象的。
安定して聞かせてくれるベースラインや力強いドラムも聞きどころ。
インパクトは弱いものの、人を当たり前に愛することの大切さを歌った歌詞が素晴らしい。
難しく考えなくていい、隠しているトゲでお互いを傷付ける必要なんてない。
普通に人を愛する事が出来ればそれでいい。
大事なのは一途な気持ち。
7.花の写真
アコギの音色は爽やかなのに、どこか切なさを感じさせてくれるカントリーテイストの楽曲。
それは、歌詞でいつか終わりの来る恋について歌っているからでしょう。
物事というのは必ず終わりが訪れるわけで、今している恋も例外ではないのです。
恋している瞬間に限らず、今を大事にしようって気持ちが描かれていました。
メロディの優しさもあってか、それがしっかり伝わってきましたね。
8.幻のドラゴン
エッジを効かせたギターサウンドが印象的なロックナンバー。
全体的にギターやベースのサウンドがゴリゴリしていて、初期に近い雰囲気を感じさせてくれるのがいい。
だいぶ年を取った彼らですが、若いバンドたちにはまだまだ負けないって強い決意が楽曲から伝わってきました。
9.TRABANT
歌
謡曲の要素を取り入れた疾走感溢れるロックナンバー。
懐かしさとカッコよさが同居していて、すごく新鮮に感じられるのがいい。
サビの爽快感と間奏の歌謡ロックを意識したギターリフは必聴。
「まる」の部分で
インパクトがあると言えば「
新月」だけど、「とげ」はこの曲です。
・まとめ
前作「さざなみCD」を超えられるのか少し不安があったのですが、そんな杞憂はあっさりと吹き飛びました。
研ぎ澄まされたバンドサウンド、ギターリフの鋭さ、マサムネの作る楽曲…
どれを取っても素晴らしいの一言。
驚いたのは、本作に収録されているロックナンバーのギターリフにかなり力を入れていることなんです。
間奏で聞かせるのはもちろん、Aメロやサビでもそれが活かされていたのは相当こだわっているということではないだろうか。
とにかくギターがカッコいいんですよね。
すでに何度か聞いている方も、ギターに注目して聞いてほしいところ。
評価:★★★★★