前作「醒めない」から3年ぶりとなる16枚目のアルバム「見っけ」。
さらにロック色を増した作風が痛快な1枚となっています。
アルバムとしてのテーマも素晴らしく、一つの物語を楽しめるのがたまらない。
・全体的な感想
ロックに対する「醒めない想い」を表明したスピッツ。
気持ちそのままに、サウンドやメロディを突き詰めてロック色を強めたアルバムに仕上がりました。
シンプルだけど良質な楽曲から感じるスピッツらしさは健在でありながら、いつも違ったアプローチで楽しませてくれるのが印象的。
本作も同じく、それを1曲目から実感せずにいられません。
一言で言うならば、このアルバムは「ロックなスピッツを見つける旅」のようなものでしょうか。
輝きに満ちたシンセを取り入れたイントロから始まる「見っけ」の高揚感はこれから始まる冒険への期待感を表しているようで。
尖ったギターサウンドと軽快なリズムが心地よいメロディと共に、聞き手は自然とワクワクしてくるのです。
それはまるで、よりロックなスピッツを探そうとする冒険者の気持ちで。
歌詞の前向きさもあって、冒険心が掻き立てられるかのよう。
続く「優しいあの子」で大自然の雄大さを肌で感じ、もう一つのリード曲「ありがとさん」では繊細だけど力強いギターサウンドに載せて普段は言えないありがとうの気持ちを伝える・・・
恋人への想いが描かれた歌詞になってるんですが、同時に冒険する仲間に対してのものにも感じられて、アルバムのテーマ的に見事と言うべきか。
その後も「ラジオデイズ」、「花と虫」、「快速」などロック色の強い楽曲を中心に揃えた構成で少しずつロックなスピッツに近づいていく旅路を表現しています。
曲が進むにつれてロック色を強めることで、それを明確にしている印象で。
途中、ピアノのしっとりしたサウンドに引き込まれる「ブービー」や洗練されたギターカッティングがカフェミュージックの心地よさを感じさせる「YM71D」など、いい意味での休息(冒険における休息)も取っているのです。
10曲目「曲がった僕のしっぽ」で旅が大詰めを迎えようとしている展開になるのも素晴らしいですね。
フルートの美しい音色をアクセントにして荒涼な雰囲気を生み出したメロディに引き込まれたかと思いきや、中盤でうねるギターサウンドと共にテンポアップする転調具合にハラハラした気分にさせられます。
終盤に待ち受ける山場をこういう形で持ってくるなんて、驚かずにいられませんでした。
アコースティックギターの優しい音色に癒される「初夏の日」はその後に訪れる安息感に満ちているし、ラストの「ヤマブキ」は安定のスピッツらしいセンスに満ちた歌詞とロックサウンドがたまらない。
『無事にロックなスピッツを見つけ出せたんだ・・・』
最後にこの曲を持ってくることにより、聞いているこちらもホッとしてしまいました。
アルバムを通して「ロックなスピッツを目指す旅」が楽しめる、スピッツらしさを残すだけでなく新たな感覚も味わえる1枚です。
・まとめ
スピッツのロックに対する醒めない気持ち。
サウンドで表現しているのは想定内ですが、まさかアルバムを「ロックなスピッツを目指す旅の物語」に見立てているとは思いませんでした。
50代を迎えてもなお衰えることのないロックへの想いにただただ脱帽するばかりです。
このアルバムを聞き終える頃にはあなたもこう言いたくなるはず・・・
「ロックなスピッツ、見っけー。」