強さも弱さも受け入れてー。
新しい時代に対する決意を一つの式典で表明した、物語的な1枚です。
昨年1月発売の「Sympa」からちょうど1年ぶりとなる3rdアルバム「CEREMONY」。
今の彼らが持つ勢いをそのまま感じられる仕上がりとなっています。
ニュー・トーキョー・ミクスチャースタイルを維持しつつ、ギターロックやR&Bなどジャンルレスにサウンドを作り上げて聞き手を圧倒しているのが素晴らしい。
そんなサウンドでしっかりと惹きつけるだけでなく、社会への警鐘も鳴らしています。
特に、前半の楽曲に込められたシビアなメッセージはこの時代だからこそ受け止めるべきではないでしょうか。
人生にガードレールは無いよな
手元が狂ったらコースアウト
真っ逆さま落ちていったら
すぐにバケモノ扱いだ
明日を信じてみませんか
なんて綺麗事を並べたって
無常に回り続ける社会
無駄なもんは切り捨てられるんだ
from どろん
真っ新に生まれ変わって
人生一から始めようが
へばりついて離れない
地続きの今を歩いて行くんだ
from 白日
現実を受け入れているように感じられる歌詞なんですが、そこからは「俺たちはこの厳しい時代を生き抜かなければならない」という覚悟や強さを感じずにいられません。
ちょっとでも気を抜いたら再起不能になるんじゃないかー。
今を生きる者たちの危機感を上手く表現していることに思わず脱帽するほどで。
それでも、みんな心の中には弱さも持っていると思うんですよね。
「飛行艇」から始まる後半部分は人間らしい弱さも垣間見せてくれました。
大空を舞おうと決意したところでどこにも行けやしないと気づかされ、さらに自分の替えなんていくらでもいると実感し、時には失恋の悲しみに人知れず涙を流す・・・
前半で覚悟と強さを歌ったからこそ、これらの弱い部分もしっかり伝わってくるんです。
自分の中にある覚悟や強さだけでなく、弱さも含めて受け入れることが今の時代を生きるためには必要だー。
新しい時代の幕開けをイメージする式典のような構成でそんなメッセージを伝えているアルバムだと感じました。
1.開会式
壮大だけどどこか不穏な空気も感じさせるイントロ的なナンバー。
新しい時代への期待と不安を同時に表現しているのが印象的。
これからどんな時代が始まるのか・・・
サウンドのみですが、思わず考えさせられました。
2.どろん
混沌としたギターサウンドの鋭さがシンプルにカッコいいロックナンバー。
全体的にスリリングな展開で、聞き手にもその空気感が伝わってくるほどです。
シビアな時代を生きる覚悟も感じられる歌詞、ラストで疾走感を増す展開も圧巻。
彼らの本気を感じずにいられません。
3.Teenager Forever
他の誰かになんてなれやしないー。
そう分かっていても自分を信じてみたい・・・
現実を受け入れながらも強くありたい気持ちが歌われた、King Gnu流のパンクナンバー。
目まぐるしく転調を繰り返しながら違和感なく聞かせているのが見事。
ラストの大胆な転調もポイント。
4.ユーモア
R&Bのトラックを意識したリズムがクセになるオシャレナンバー。
小気味いいリフを刻むアコースティックギターの音色はシンプルに心地よい仕上がり。
井口の繊細なボーカル、常田の味わい深いボーカルによる掛け合いもたまりません。
5.白日
罪や過ちを犯した事実は消えないー。
それでも前を向いて生き続けることが大切だと歌ったミドルナンバー。
スタイリッシュさも感じさせるトラック、ボーカルの掛け合いが歌詞のメッセージを確かなものにしています。
6.幕間
ゆったりと聞き手をリラックスさせるような雰囲気が漂うインストに仕上がっています。
式典の途中に挟まれる休憩のようなものでしょうか。
7.飛行艇
大合唱したくなるほどの存在感を持つサビ、重厚なドラムによるリズムが印象的なアンセムナンバー。
飛行艇が飛ぶ大空を舞って存在感を知らしめたいー。
そんな野心を一歩一歩踏みしめるかのような足取りのメロディやサウンドで表現しています。
8.小さな惑星
ギターサウンドの疾走感、冬っぽさを感じさせる音のアレンジが心地よいポップナンバー。
日常の光景も宇宙全体から見ればちっぽけなものに過ぎない・・・
スケール感のある歌詞を引き立てるメロディも印象的。
9.Overflow
感情や物事など、いっぱいいっぱいでパンクしそうな状態を上手く表現したポップナンバー。
ヌーらしくスタイリッシュで軽快なメロディが病みつきになります。
10.傘
失恋の悲しみを降りしきる雨に例えて歌い上げた1曲。
洗練されたリズムと井口の繊細な歌唱がそれをより増幅させています。
雨の降る様子を表現したギターサウンドも印象的。
11.壇上
ピアノとバイオリン、チェロの美しい音色が心に染み渡るバラードナンバー。
深みを感じさせる常田のボーカルは歌詞に込められた自分の弱さを素直に伝えてくれます。
渋さを押し出しているイメージが強い常田のボーカルですが、思った以上にピアノサウンドとの相性がいいんだなと感じました。
12.閉会式
ストリングスの奏でる異国情緒感じるメロディラインが印象的。
ここから新しい時代がスタートするわけですが、待っているのは希望に満ちた世の中か、それとも・・・
「白日」のヒット、紅白出場を経てリリースされたKing Gnuのニューアルバム「CEREMONY」。
一つの式典をイメージした構成になっているためか、各シングル曲が絶妙な配置だと感じました。
歌詞のメッセージ性も考えているのが伺え、作品としても上手くまとまっていると思います。
20年代の幕開けを飾るに相応しい良盤がここに誕生です。
CEREMONY by King Gnu on Spotify