馬と鹿/米津玄師 -願いを叶えられなかった悔しさを原動力に-
「BOOTLEG」を発売してからというもの、リリースした楽曲が配信やビルボード1位を記録するなど、勢いが止まらない米津玄師。
昨年の「Lemon」が未だにビルボード20位以内に留まっていることや、8月に公開された「パプリカ」セルフカバーのMV再生数が700万回を超えていることからもその凄さが伺えると思います。
9月11日に発売されたシングル「馬と鹿」もその勢いを感じずにいられませんでした。
王道J-POPのバラードを意識したサウンドと切ないメロディと歌詞が胸に迫る、新たなラブソングの誕生です。
カップリング曲「でしょましょ」は打って変わって遊び心満載の音使いに注目。
意外とメッセージ性の強い歌詞も含め、なかなか侮れない仕上がり。
以下、収録曲レビュー
1.馬と鹿(「ノーサイド・ゲーム」主題歌)
大切な人を守れるだけでいい、だけどそれを叶えられなかった・・・
そんな悲しみを味わい深く歌い上げたミドルバラード。
歌い出しからAメロ~Bメロにかけての穏やかなギターフレーズがサビに向けての盛り上がりを確かなものにしています。
サビで聞かせるストリングスの胸に迫るメロディライン、力強いリズムを刻むビートもあってグッと引き込まれる仕上がりに。
そんな楽曲が歌詞に込められた悲しみとその願いを叶えたいという一途な想いをより引き立てているように感じました。
特に、二番目のサビが終わりから短い間奏に入る瞬間と大サビ前のストリングスの引きは圧巻。
聞き手を効果的に楽曲へと惹きつけて、最後まで離さないようになっているのが見事で。
加速していくかと思わせてふっと切れるアウトロもドラマ的な余韻を与えてくれる。
それは心に秘めた願いを次こそは叶えたい、強く決意した瞬間のようにも感じられて。
ところどころに挟まれる音ネタといい、米津らしいセンスが炸裂したJ-POPの新たなラブソングがここに完成です。
2.海の幽霊
海の壮大さそのものと言えるメロディとサウンドに圧倒される1曲。
雄大なうねりを表現した重低音、神秘的な響きのピアノサウンドが印象的で海の中を揺らいでいるような感覚を味わうことが出来ます。
それを実感させてくれるのが二番目のサビに入る前の展開で。
クジラの鳴き声や海中を泳ぐ魚たちの鼓動を音で感じさせてくれるのが見事。
米津さんの歌が入ってきた瞬間にグッと来るものとなっています。
また、年に一回訪れるお盆の情景を描いた歌詞もこの曲の魅力を高めているなと感じました。
ご先祖様と再会できる機会だからこそ、大切にしていきたい・・・
祖父を亡くした悲しみから「Lemon」を書き上げた米津ならではの想いがひしひしと伝わる、その表現力に脱帽。
3.でしょましょ
気だるげな雰囲気を感じさせる米津さんの歌唱、ゆったりとしたメロディとリズムが心地いい1曲。
後半から入ってくる漂うような音のシンセサウンド、笑い声や叫び声はインパクト抜群で何とも言えない奇妙さを生み出しています。
ラストサビの叫び声に歌メロをかぶせたり、笑い声・叫び声を楽曲の一部にしているのもあって、米津らしいセンスに満ちているなと感じました。
単にゆったりとした雰囲気の曲ってだけならありがちなんですが、上記の点で圧倒的な中毒性を持っているのが見事。
「とりあえず気楽に行きましょ」と語りかけるような歌詞も印象的。
昔に比べ、今の時代は普通に生きていくのも困難になりつつあって。
日々を生きるために気を張り詰めて暮らしている方も多いんじゃないでしょうか。
嫌な事件も多く、心も荒んでしまいがちになりやすくなっている・・・
だからこそ、あえて肩の力を抜いてみるのもいいんじゃない?
いろいろ積み重なって壊れるくらいなら、いっそ開き直って生きていこう。
余計なプライドを捨ててみたり、難しく考えすぎずにいることが大切なんでしょうね。
歌詞のメッセージとともに、気楽な気持ちで聞いてほしい。
あと、「令月にして風和らぎ」ってフレーズが新時代の到来を感じさせると言いますか。
新しい時代こそ生きやすいものであってほしい、米津さんがそんな想いを込めて歌っているようにも思いました。
まとめ
既に先行配信、または配信シングルでリリースされた曲が主で純粋な新曲は「でしょましょ」のみでしたが・・・
シングルとして発表されることにより、「馬と鹿」と「海の幽霊」も米津の勢いをしっかりと感じさせる曲であるなと改めて実感。
王道バラードから変化球ありの曲まで、中身の濃い楽曲を楽しめました。
まだ先になりそうだけど、いつか発売されるアルバムが楽しみで仕方がありません。
米津玄師 MV「馬と鹿」Uma to Shika - YouTube
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