高知の片隅でひっそりとJ-POPを語る

高知から音楽(J-POPメイン) やアニメなど、好きなものへの愛を語っていきます。

SEKAI NO OWARI「Tree」-現実ともリンクしたファンタジーポップ-

 辛い過去と向き合ったから生まれた覚悟―。
同時にサウンドも突き詰め、ファンタジーな音世界を深めたポップアルバム。

 

・全体的な感想

SEKAI NO OWARIの2ndフルアルバムとなる「Tree」。

本作はファンタジーな世界観を深めた音作りが顕著になっています。
でも、決して現実的なものから目を逸らしているわけではないんですよね。
水をかく音や踏切の警報音、象の鳴き声に雑踏の日常的な音など・・・
ありふれた音をサンプリングしてセカオワ流のポップミュージックに取り入れているんです。
ファンタジーと現実感が程よく交じり合い、彼らならではの音が生まれている印象。
「ENTERTAINMENT」以上に自身のサウンドを突き詰めていて、迷いのなさが伺えました。

 

その変化は自身の過去と向き合った歌詞からも読み取れました。
絶望を感じた過去と真剣に向き合った「銀河街の悪夢」。
全てを失った瞬間に改めてスタートしようという決意が歌われた「アースチャイルド」。
単にファンタジー路線に逃げたのではなく、前へ進もうと決めたからこその変化だと思います。

その上でメッセージを投げかけていかないと説得力がない―。
自身と向き合ったことで覚悟も生まれたFukaseの強さも感じられるアルバムとなりました。

 

・全曲レビュー

 

1.the bell
ベルの音で構成されたイントロ的トラック。
聞いた瞬間に不思議な世界へと誘われてしまう、そんな雰囲気作りが見事。

 

2.炎と森のカーニバル
セカオワの作り上げた世界への入り口とも言える1曲。
ブラスバンドのリズムやアコーディオンの音色がカーニバル的な雰囲気を醸し出しています。
触れると壊れそうなファンタジーな世界をアレンジの繊細さで表現しているのは見事。

 

3.スノーマジックファンタジー
雪の妖精を好きになってしまった、叶わぬ恋の物語。
雪が降る様子を表現したピアノの音色が何とも言えない儚さを感じさせます。
幻想的な世界だからこそ、こういった恋もありなのかもしれませんね。

 

4.ムーンライトステーション
祭囃子や三線のフレーズとダンサンブルなリズムが融合した、和風ダンスチューン。
汽車のサウンドを取り入れたり、東京駅や横浜と言った現実の地名が登場するなど・・・
あくまでも現実に近い形で表現しながらも、ファンタジックに仕上げているのが印象的。
ダンスビートと汽車の音を重ねている個所のリズムが心地いい。

 

5.アースチャイルド
ファンタジックかつ底抜けに明るいサウンドが印象的なポップナンバー。
陽気かつ美しいピアノの旋律が楽曲に彩りを与えています。
鐘の音や花火が打ちあがる音を取り入れていることもあって非常に華やか。
地球出身のバンドとして歌っている設定も含めて、世界観の構築が見事です。

何より、終わりがあるから始まりもあると歌っているのが前向き。
一度全てが終わった瞬間を味わったFukaseだからこその説得力があると言いますか。
何があっても自分たちのスタンスを曲げない―。
そんな自信の表れを感じました。

 

6.マーメイドラプソディー
人魚を題材にし、「自由とは、幸せとは何か」を問いかけるポップソング。
水中で浮上していく泡を表現したサウンドアレンジがこれまた繊細。
水の中でしか自由に動けない人魚は人から見れば不自由なのかもしれませんけど・・・
当の人魚は会いに来てくれる人がいるだけでも幸せなんですね。
今いる場所が不自由だったとしても、それは人魚にとって自由以上のもの。
自由や幸せって人それぞれで決まったものじゃないんですよ。
勝手に自分の価値観を押し付けるな、そんなメッセージも含まれているように思います。

 

7.ピエロ
象の鳴き声や歓声を取り入れたサウンドが印象的なパーティーチューン。
現実の音のみでサーカスの空気感をそのまま表現しているのがセカオワらしい。
不安なピエロ役の人の背中を押す歌詞に勇気づけられます。
ゆったりとしたBPMでありながら、心拍音をサンプリングしたサウンドがそれを感じさせる。

 

8.銀河街の悪夢
絶望を感じた過去と真剣に向き合った1曲。
日常を感じさせる音や踏切のSEに乗せて奏でられるアコギのメロディが優しい。
一度堕ちるところまで落ちたからこそ、強くなるしかないわけで。
絶対に立ち直ってみせる、優しいメロディの中でも前に進む力強さを感じました。
日常的な音をサンプリングしているせいか、生々しくてリアル。

 

9.Death Disco
セカオワの楽曲でもっとも挑戦的と言えるエレクトロナンバー。
EDMによる打ち込みサウンドが重厚でカッコいい。
誰もが信じていることに対して疑問を投げかける歌詞にも考えさせられる。
みんなが信じていたり、やっているからってそれに従ってばかりでいいのか・・・
少しは自分の意志を持って行動するべきではないか―。
周りに流される人間が多い世の中に対して、疑問を投げかけたのが見事。
ある意味、彼らの問題曲とも言っても過言ではない。

 

10.broken bone
Fukaseが骨折した時の心情をそのまま歌にしたと思われるポップチューン。
当時のネガティブさが潜む歌詞と弾けるメロディとのギャップが何とも。
後半で転調してからのリズミカルな展開は前へと進もうとする意志を感じさせる。
自身の骨折エピソードをポップに歌い上げるあたりがそうなんでしょうね。
「broken bone」をポップコーンと空耳で聞かせている点といい前向きです。

 

11.PLAY
RPGゲームをモチーフにした世界観が印象的なナンバー。
チープなシンセサウンドや電子アレンジがファミコンっぽい雰囲気を感じさせますね。
ここじゃないどこかへ行ってみたい気持ちが出た時こそが始まりだと歌う歌詞もポジティブ。
思い立った時に行動を起こさないと後悔する―。
絶望を感じた時がスタート地点のセカオワだからこそのメッセージ。

 

12.RPG
マーチングバンドのリズムを取り入れたポップナンバー。
今までのセカオワと違い、非常に前向きさを感じられる仕上がりでした。
壮大なメロディとコーラス、力強いマーチングバンドのリズム・・・
冒険の始まりにワクワクする感覚を楽曲の開放感で表現しているのが印象的。
曲が進むにつれて力強さを増すFukaseの歌唱もポイント。
RPGそのものを表現しつつ、仲間の大切さを伝えているんですよね。
かけがえのない存在がいれば前へ進むのも怖くない―。
前進する彼らの決意表明とも取れる1曲。

 

13.Dragon Night
EDMを先導するニッキー・ロメロのプロデュースによるエレクトロナンバー。
軽快なEDMサウンドが聞いていて程よい心地良さを感じさせます。
それでいて繊細さを同居させているのがセカオワらしくもあるんですよね。
サビや間奏を繰り返す展開といい、キャッチーで耳に残りやすい。
「ドラゲナイ」と聞こえるサビもいろんな意味で印象的。

人は争い合うのではなく友達のように踊るべきと歌った歌詞も印象的。
本来、人類はどこかで繋がっていると思うんですよね。
人間の本質についても歌っているのが深い。

 

・まとめ

自身と向き合ったことでファンタジーな音世界を突き詰めた彼ら。
独自のポップセンスが炸裂した傑作となりました。
前へと進む覚悟が出来たセカオワを今後も見守っていきたい。

 

Tree(通常盤)

Tree(通常盤)