高知の片隅でひっそりとJ-POPを語る

高知から音楽(J-POPメイン) やアニメなど、好きなものへの愛を語っていきます。

スピッツ「小さな生き物」 -少しでもいいから力強く前へ-

少しずつ前へと進んでいく。
着実に歩を進める力強さを感じる、新たな名盤が誕生しました。

・全体的な感想

前作「とげまる」から約3年ぶりとなるスピッツのオリジナルアルバム「小さな生き物」。
相変わらずのスピッツ節が炸裂している点はいつもと変わりませんが。

それぞれの楽曲がとても活き活きしているんです。
飛び抜けて目立つ曲はないけど、しっかりと聞き手に主張してくる。
小さくても真っ直ぐ生きる生き物たちの力強さを感じる13曲が揃いました。

そんな作風の背景には2011年の震災が少なからず影響していると思います。
2011年の震災で何もかも失われていく現状・・・
その状況に受けたショックは計り知れないものではないでしょうか。
それでも、辛い状況を乗り越えて頑張っている人々がいるわけで。
マサムネなりに前へ進もうとする人々の力強さを表現したのが本作だと感じました。

また、曲順も絶妙。
決意を歌った「未来コオロギ」から始まり、「僕はきっと旅に出る」と決意を歌って終わる。
優しいメロディもあって、ただ単に希望だけを感じさせる作りになっています。
また、シンプルで力強くかつ繊細になった演奏にも注目して聴いてほしい。
少しでもいいから前へ進もう―。
そんなメッセージが込められた、スピッツの新たな名盤です。

・全曲レビュー

1.未来コオロギ
どこか希望を感じさせるギターリフが清々しい軽めのギターロック。
しっかりとうねるベースラインやドラムのビートが曲を支えている。
バックで鳴らされる澄み切ったピアノの音も曲に彩りを加えています。
決意を歌った歌詞も含め、前へに進もうとする力強さが印象的。
 
2.小さな生き物
優しいギターサウンドをバックに力強く生きると歌った、決意表明とも取れるポップナンバー。
自分たちを含め、地球上の生き物たちの強さが表現されている。
しっかりとした存在感のベースラインに注目して聞いてほしい。

3.りありてぃ
いかにもスピッツらしいロックナンバー。
へヴィにうねるギターとポップなメロディが何とも絶妙。
間奏のギターソロも圧巻なので、注目して聴いてほしい。
「りありてぃ」というタイトルらしく、現実に触れた歌詞もポイント。
鋭いギターサウンドに載せて歌われているためか、ガツンと来ます。
あと、タイトルをあえてひらがなにしているのが何ともシュール。
重いギターサウンドと相まって、インパクト大。

4.ランプ
アコギの優しい音色がランプのような温かさを感じさせるミドルチューン。
バックで鳴るオルガンやシンセなどの音も曲に彩りを添えている。
どこか懐かしい雰囲気のメロディラインも含め、心に沁み渡る1曲と言えます。
ランプの温かい光がそのまま楽曲となった、今の時代に聞くべき名曲。

5.オパビニア
タイトルのオパビニアとはカンブリア紀にいたとされる海中生物。
それを題材にして人と繋がることの大切さを歌った、ある意味でスピッツらしさ全開の1曲。
伸びやかなシンセとバンドサウンドによる開放感あるサビがたまりません。

6.さらさら
どこか切なさを含んだサウンドが印象的なギターロック。 
ギターアルペジオとコーラスの織り成すイントロ、サビまでの穏やかな展開・・・ 
マサムネの透明な歌声がその切なさをより増幅させている。 
切なさだけじゃなく、優しさも忘れていないのがスピッツらしい。 

何より、サビが非常に力強い。 
ゆったりとしたビートを刻みつつも、手数の多さで力強さを感じさせるドラムや前向きなフレーズ。 
震災以降のシングルだけあって、その影響も感じずにいられない。 
改めて先へと進もうとするバンドの決意に満ちていると言えます。 

個人的な聞き所としてはCメロとラストのサビです。 
ヘヴィーにうねるギターリフがたまらないCメロと疾走感を増すラストのサビ・・・ 
特に、ラストのサビでは少しずつ手数を増やしていくドラムの技巧さが光る。 
テンポが上がっているわけでもないのに、そう感じさせるのはベテランの成せる業か。 

7.野生のポルカ
ティンホイッスルの音色が哀愁を感じさせるアイリッシュパンク。
民族音楽のテイストを感じさせながらも、直球ナンバーに仕上げている。
何と言っても、曲を聞いているだけで気持ちいい。
馬が駆け抜ける様を音楽で表現しているのが見事。
ラストにあるフラワーカンパニーズとの大合唱も含め、野性味溢れる仕上がり。
爽やかでありながらしっかりと野生も感じさせてきた・・・
改めてスピッツの凄さを感じます。

8.scat
タイトル通り、スキャットのみで構成されているロックナンバー。
勢いのあるギターリフ、ヘヴィーなベースライン、力強いドラムビート・・・
歌がない分、演奏にこだわりを感じさせる。
スキャットの生み出す浮遊感が何とも言えない異質さを生み出している点もポイント。
地味に聞き手を引き込む力があって侮れない。

9.エンドロールには早すぎる
80年代の空気を感じさせるディスコナンバー。
打ち込みサウンドとギターの生み出すリズムが実に心地いい。
失恋ソングなんですけど、ポップに聞かせる辺りがスピッツらしさを感じさせる。
ラストのフレーズも含め、ひねくれ感の半端ないポップミュージックです。

10.遠吠えシャッフル
シャッフルのリズムを取り入れたロックナンバー。
ギターの奏でるリズムが心地いい仕上がりです。
現実を揶揄したと思われる歌詞にも注目してほしいところ。

11.スワン
どこまでも澄み渡るようなアコギの美メロが印象的なバラード。
シンセも加わったサビは実に圧巻。
星空に亡くなった君が光として浮かんできた情景を描いた歌詞ともマッチしています。

12.潮騒ちゃん
リフレインされる「潮騒ちゃん」のフレーズが言葉遊びを感じさせるコミカルナンバー。
サビでさりげなく入れる中華風のギターリフに遊び心があって面白い。
カッコ良さを押し出した間奏のギターソロにも注目です。

13.僕はきっと旅に出る
ピアノのポップな音色とマサムネの歌声が聞く者を包み込んでくれるポップナンバー。 
全体的にポップな仕上がりなんですけど、力強いギターリフとドラムも印象的。 
どこかロックテイストを感じさせるのもスピッツならではだと思います。 
旅に出ようとする決意を歌った歌詞がバンドの決意を感じさせる。
まだまだやりたいことがあるからこその終わり方がスピッツらしい。

・まとめ

力強くも繊細なサウンドが印象的な本作。
歩みは小さくとも、一歩ずつ確実に進んでいけばいい―。
そんなマサムネの想いが伝わってくる名盤です。
ひねくれた中にも真っ直ぐなメッセージを感じずにはいられません。
スピッツらしい歌詞やサウンド表現で背中を押してくれる、ポジティブなロックアルバム。
優しいメロディの本作、ぜひとも多くの方に聞いていただきたい。
殺伐とした時代だからこそ、必要な1枚ではないでしょうか。

評価:★★★★★

小さな生き物

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