山口一郎が苦悩の末に生み出した傑作。
自身が感じた心情を生々しく描き切った歌詞は圧倒的。
メロディに関しても、新たな試みが見られました。
・全体的な感想
これまでの作品以上に山口一郎の心理描写を楽曲として表現できているように感じました。
活動の拠点を北海道から東京へと移してから感じた孤独や閉塞感などが描かれており、全体的に暗い作風になっているのが印象的。
それを収録されている楽曲にも反映させているのが見事。
特に、「モノクロトウキョー」はその影響が出ていますね。
Aメロからサビにおける山口一郎の暗い歌唱と抜け切らない曲展開によって、東京で感じた孤独感や閉塞感を表現しています。
サビでシンセやギターサウンドを爆発させる曲展開になっていることを考えると、立ちすくんでいるだけじゃいられないという前向きな決意も含まれているように感じました。
その他の曲に関しても、一郎が感じた苦悩などの心理が反映されています。
ラテン要素を吸収した新しいサカナサウンドに自身の存在意義を問いかけた歌詞を載せて歌う「アイデンティティ」。
部屋に取り残された状況(孤独とも言える)の中で誰かに行かないでと切実な気持ちを訴える「ルーキー」。
自分が見せる笑顔は仮面でしかない苦しみが描かれた「仮面の街」。
自分の意志とは裏腹に空回りしてしまう心をアコギとシンセによるシンプルながらも深みのあるサウンドで表現した「流線」。
人が抱える苦悩は終わることがない様を歌った「エンドレス」。
聞きなれた旋律だけど何かを感じることの大切さを歌った「バッハの~」など・・・
実に生々しい感情がむき出しになっています。
しかし、エレクトロを基調として深みが増したサウンドに乗せているため、聞きやすさは健在。
シンセの音使いや浮遊感の演出なども技巧的になっており、息を飲むばかり。
ラストの「ドキュメント」が素晴らしく、ギターの切ないサウンドとシンセサウンドが壮大な音世界を作り上げています。
民族楽器を髣髴とさせるシンセサウンドも印象的。
ラストが愛の歌 歌ってもいいかなって思い始めてるってなっているのも、前向きさを感じさせてくれました。
まさに、タイトル通りの「DocumentaLy」と言える名盤に仕上がっています。
・まとめ
サウンドや歌詞で新しい試み(「流線」のインストにも近い雰囲気は印象的)を感じさせてくれたサカナクション。
今までの要素を活かしつつ、さらに深化を遂げているようでした。
エレクトロやテクノを基調としたスタイルから、もう一歩踏み出そうとしているのでしょうね。
今後も楽しみなバンドです。